石井俊匡監督「そばへ」

ぜんぜん更新してなくってすみません……。

以前から注目してた石井俊匡さんの初監督作品がネットで公開されましたので、どうしてもこれだけは取り上げたくて。
丸井や東宝が企画した、WEB公開のショートアニメです。(コミックナタリーさんのネット記事はこちら
タイトルは「そばへ」で、YouTubeで動画が公開されています。

ショートアニメーション『そばへ』Full Ver.

ショートアニメーション『そばへ』Short Ver.


監督に石井さんを指名したのはアニメ会社「オレンジ」のPのようですが、企画を通してくれた丸井や東宝の偉い人たちにも石井ファンとして感謝感謝。

「そばへ」はフルバージョンでも実質二分くらいの短い映像なので、話の流れはとてもシンプルです。
行方不明になった傘が女の子になって町をさまよい、また手元に元にもどってくる、という流れなのですが、前情報なしで一度見ただけだと「女の子=傘」というのがわからない人もいるかもしれません。
これは動画として繰り返し観られることを前提にしているからで、わかりづらさはあえてのことだと思います。

わかりやすく作るのであれば、動画の最初の方で傘が女の子にメタモルフォーゼするカットを入れれば一発で伝わります。
メタモルフォーゼは(昔の実写だと難しかった)アニメならではの基本的な魅力の一つなので、演出家としては当然頭にあったと思います。

あえてそれをやらなかったのは、このアニメが「動き」を見せることに注力しているためだと思われます。
始めに説明的なカットを入れず、女の子の動きだけで傘が風に煽られて街中を飛んでいるところを表現したかったのではないかと。
だから台詞も最小限に抑えています。

以下のあたりとか、開いた傘が引っかかってしまうところが女の子の動きとして面白く表現されてますね。(静止画じゃ伝わりづらいでしょうが)

そばへ1
そばへ2
そばへ3
そばへ4


制作はCGアニメ会社オレンジ。
「宝石の国」で元請けをして、そのクオリティの高さで名を上げました。

「そばへ」も3DCGで作られてますが、セルルックでとても自然な仕上がりですね。
クレジット見る限り、顔とかを手書き絵で修正してるとかじゃなく、ぜんぶCGみたいです。
めっちゃ自然ですね。顔にほとんど影をつけない、秦綾子さんのキャラデザのためもあると思いますが。

モーションキャプチャーでアクターの動きを取り込んで作っているようですが、CGアニメーターたちがうまく動きのタメツメをやっているので、動きも気持ちいい。
宝石の国でも3DCGならではの回り込むカメラワークが魅力的でしたが、「そばへ」でもそういう手書きだと難しい表現が何カ所かありますね。
手書きアニメの背景動画はどうしても背景の情報量が落ちるので違和感がありましたが、これなら違和感ないです。
ハリウッドの実写なんかでは70年代にステディカムが採用されて(ロッキーでも使われてる)、手ぶれの少ないカメラ移動が可能になって、近年ではやたらとカメラが動くようになってますが、アニメもそうなっていくんでしょうね。

セルルックのCGアニメは「蒼き鋼のアルペジオ(2013年)」とか「楽園追放(2014年)」あたりでもすでにかなり自然でしたけど、その頃はたしかまだカットによってはキャラの顔は手書きで直してたはずです。
最近はモーションキャプチャーの技術が向上したり、髪やスカートの動きが自然にできるようになって、どんどんクオリティが高まってます。

一方で、アニメは実写と比べて建物などの配置をまったく自在にできるため、FIXの構図で魅せるというやり方も武器となります。
「そばへ」でも、ラストにこんな構図が。

そばへ5
そばへ6


向かい合った二人の間にある障害物(この場合は街灯のポール)を、片方がぴょんと乗り越えることで、より二人の距離感が縮まったことを強調してます。
石井監督の得意な手法ですね。

右側の男の子が手にしている黒い傘は、その人の気分を暗示してます。
また、陽の射し込む角度の関係で、画面右側の方もやや暗く設定されてます。
こういうライティングが自在なのもアニメの武器。

最後に、彼女が差し出した傘を、男の子が下から見上げることでそこに美しい景色を発見し、嫌いだった雨のことを見直す、というような落とし方になってます。

そばへ7
そばへ8
そばへ9
そばへ10


短い映像ですが、一度観たときは傘の女の子の動きに惹きつけられ、繰り返し観ると作りの丁寧さがわかる、よい作品だと思います。

石井さんは、最近の俗語でいう「エモい」演出ができる方です。
2018年の「抱かれたい男1位に脅されています。」の7話で石井さんは絵コンテ・演出をされてますが、これもめちゃくちゃエモかった。
ネットで検索してみると、7話を絶讃する意見が多く見られます。どうやら普段アニメの演出を意識しないで観ている層にも刺さったみたい。

演出家としてのタイプは違いますが新海誠監督や山田尚子監督に匹敵するエモさがある気がします。
エモさ押しといえば出崎統監督からの流れで、幾原邦彦監督や新房昭之監督や大沼心監督という方々もいらっしゃるのですが、石井さんの場合はかっちりした象徴的な構図を武器としつつ、処理のうまさでカットの流れを綺麗に作っていくところに特徴があります。
ここぞというときの決めカットの凝り方などは高雄統子監督と近いタイプな気がするし、広角レンズ的な画面の作り方や、抜けのいい屋外シーンの画作りなどは少し細田守監督的でもある。
(だから「未来のミライ」の助監督を石井さんが担当したのを知ったとき、すごく腑に落ちた)

ファンとしては石井監督の劇場アニメが観たいです。
作風的に劇場が一番向いているんじゃないでしょうか。
石井さんはテレビの仕事でも要所要所で鬼のようにうまいレイアウトを入れているので、時間と予算をかけて、たとえば押井守監督や今敏監督や松本理恵監督のような情報量の多いカットをがんがん入れて映画を作ったらどうなるか、想像するだけでわくわくする。
書いてる人

藍上 陸(らんじょうりく)

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