アキハバラ∧デンパトウ・第4回解説

アキハバラ∧デンパトウ (GA文庫)
藍上 陸
れい亜 (イラスト)
SBクリエイティブ


第3回の解説はこちら。

第4回は、ZOO(ズー)という、マンションのなかで勝手に動物を飼っている中年男性が登場します。
2010年に企画を作ったときからいるキャラなのですが、なぜ中年男性にしてしまったのか……と、あとになってふと思いました。
コメディ作品なので動物たちをだしたほうがにぎやかになると思ったのですが、ふつうは美少女の動物使いとかにしそうなものですが。

いわゆる「アパートもの」というジャンルでは、主人公のみが男性で、ほかは女性ばかりというハーレム図式が多いので、それに対する反撥があったのかもしれません。
でも好きなんですよね、このZOOというキャラ。
コンビニの店長をやっている「番人」という中年もそうですが、本作ではこのあとも中年キャラがよくでてきます。いま思えばよく企画が通ったなと。


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 床にぼふんと落下して転がったそれは、全身が白い毛玉のようで、とても生き物には見えなかったが、やがてぴょこんと、細長い耳らしきものが毛玉の上につきだした。
「ひょっとして……ウサギ、なのか?」
 まるで伝説の毛だけの生物、ケセランパサランのようだが、よく見ると毛の隙間から特徴的なウサギの口らしきものがうかがえる。アンゴラウサギという長毛種だ。小さく『ゴラ、ゴラ』とつぶやいている。老人のようなしゃがれ声だ。
 部屋にはほかに、カピバラの『カピ、カピ』というとぼけた声、ヘビの『ニョロ、ニョロ』というかわいいアニメ声が重唱している。
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目をさました部屋で、謎の生物たちと邂逅するシーンです。
ここでは、カピバラ、ニシキヘビ、アンゴラウサギの三匹がでてきます。
カピバラは昔から好きな動物で、ぜひだしたいと思っていました。アンゴラウサギは、最近では心がぴょんぴょんする某作品にでてきて有名になりましたが、自分も昔から好きな動物でした。
アキカン!の7巻の著者紹介の文で、「五年前に現在のカピバラブームを予見していたのですが、だれに言っても信じてもらえません。なのでこの欄で次のブームを予言しておきます。これからはアンゴラウサギとオヒョウの時代です。」とか書いていました。
アンゴラウサギの時代はきましたが、オヒョウの時代はまだですね。この作品でだしてやりたいとも思っていましたが、さすがにマンションで海の生物をだすのは無理でした。
ニシキヘビをだしたのは、ふわふわ系ばっかだと印象が甘くなるので、ちょっとキツめのやつもだしておこうという狙いです。


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 やがて耳のなかまで締めつけられたように、世界から音が消えていった。
(あぁ…砂丘のように…静か…だ、ナァ……、…………、………………)

  ZOOの動物園
「あの動物たちはなんなんですかァ――――――ッ!!」
 大音声によって、ダイニングキッチンがこんにゃくのように震えた。
 テーブルを叩きながら叫んだ高橋は、目の前にすわる男性を睨みつけた。
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ここでは、一行空きを挟んで、ステープリング・テクニクスの「音響関連法」が使われています。
「音」の相似や落差を利用してシーン同士に関連性を持たせる方法ですが、ここでは音量のちがいを強調しています。
まず、(あぁ…砂丘のように…静か…だ、ナァ……、…………、………………)と徐々に沈黙していく内言を書いたあと、一行空きを挟んで、絶叫の台詞が入ります。その音の落差を使うことによって、シーンのつなぎにメリハリをつけます。

「ダイニングキッチンがこんにゃくのように震えた」という表現は、よくアニメなどで見られるものです。
大きな音によって、部屋全体がぶよぶよと震えるイメージです。部屋の内側から見るというより、外側から見る感じでしょうか。


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 目じりと口端がくっつきそうなふにゃっとした笑みを浮かべ、彼がコーヒーをすすった。
 歳は四十前後だろうが、距離を置けば二十代前半に見えてもおかしくないくらい若々しい顔つきをしている。中年太りとは無縁な引き締まった体を、白いタートルネックのセーターでつつんでいる。薄茶色のやわらかい癖毛が、その穏健な人柄をよくあらわしていた。
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前記したように、本作では中年の男性キャラがよくでてきます。それをどのように描写するかが、わりとたいへんでした。コメディ作品なので、あまりがっつりとおじさんぽく書いてしまっても、以降のコミカルなシーンのイメージとずれてしまいますし、女の子たちとも雰囲気が変わってしまいます。
適度に誇張を交えつつ、うまいことほかのキャラと馴染ませるように注意しています。


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「で、ですよねー……」
 なにやらヤバイものを感じて、高橋はホヤのようにえへえへと空笑いした。
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この作品でよくでてくる海鮮物系の比喩の一つです。書き手としてはこういうとこでストレス発散します。


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 戸がぱたんと閉(た)てられる。
 ふぅ、と高橋はため息をついた。
「やれやれ……」
『ったくめんどくせぇ野郎だぜほんと。』
 高橋の台詞のつづきが、何者かに奪われた。
 おどろいて「えっ?」とふり返ると、カピバラのポルポトがしゃべっていた。
 ぬぼ~っとした顔のまま、『しょうがねぇやつだぜ』と当然のごとく人語を使っている。
『人間のメスのことなんてわすれちゃえばいいのよ♡』
 ニシキヘビのクレオパトラも声優のような声でしゃべった。
『諸行無常アル。あらゆる執着はすてるヨロシ。コレ、中国人の知恵。』
 アンゴラウサギの毛沢東の口からも、老人のようなしゃがれ声がもれた。
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一行目の「戸がぱたんと閉(た)てられる。」というのは、この少しあとにもまったく同じ文がでてきます。
これは展開がくり返し(天丼)になるので、そのきっかけとなる文も同じものにしたためです。
動物たちがいきなり人語をしゃべりだしますが、なんでかという理由は明かされません。「そういうもの」というふうに流されます。こういうのはナンセンスの一種なので、理由がわかってしまうと白けるんですよね。
個人的にアンゴラウサギの「毛沢東」のベタベタな中国人口調が好きです。毎回「コレ、中国人の知恵」とくわえるところとか。当初はもっと老人口調にしようと思ったのですが、そうすると心がぴょんぴょんする某作品とかぶるので、こうなりました。


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 部屋から、スーツを着た五十代の男性がでてきた。
「あ、企業戦士さん、これからですか?」
「おや、ZOO君もご苦労だね。」
 喉の奥で幾重にも響かせたような、魅力的な低い声で男性が答えた。
 ロマンスグレーの豊かな髪を、自然に七三にわけている。黒縁のウエリントン眼鏡が、その顔に刻まれた皺を魅力的に飾っている。身にまとっているスーツの生地は、グレーフランネルのチョークストライプ。体に無駄なくフィットしていることから、既製服(つるし)ではなく採寸をとった仕立て服であることがわかる。ドレスシャツの首まわりにも隙がなく、ボルドーのソリッドタイがきりりと結ばれていた。
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なんと、またもや新キャラは中年!
この作品は売る気があるのか、という気がします。
この企業戦士というキャラは、つぎの話数で活躍(?)するので、ここではあまり書くことがありません。
服装の描写については完全に僕の趣味が反映されてます。ようはクラシック好みということですね。

このあとに「せやねん」というジャージ姿の女性がでてきて、高橋にドロップキックをかますところで今回の話は終わっています。
せやねんについてもつぎの話数で活躍(?)するので、ここではあまり書くことがありません。(おい)

ということで、今回の解説は以上です。
内容的にとくにひねったところがないので、ずいぶん短く終わってしまいました。毎回これぐらいの解説量なら楽なのですが。

第5回の解説はこちら。
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藍上 陸(らんじょうりく)

藍上 陸(らんじょうりく)
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