トリプルアクション(ダブルアクション)

【 トリプルアクション(ダブルアクション) 】

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「だめですペンネさん、でてきちゃ、」
 が、着ぐるみの足もとがつるりとすべった。
「ぺちっ!?」
 ハエ叩きを思わせるいきおいで倒れこみ、ぺしんと顔から床に叩きつけられた。
 もしコマ送りでそのシーンを正面から再生したとすれば、倒れこむいきおいによってピンクのシャンプーハットが吹っ飛び、後ろ髪が風圧でまくれあがってエリマキトカゲのようになっていく様を確認することができるだろう。
 真横から撮影した映像があれば、ヌグがはじめに踏みだした右足の一歩が、つぎなる一歩を踏みだすために力をこめた刹那に悲劇が起きたことがつぶさに観察できよう。右足にこめられた力はヌグの体を前進させることなく、つるりと床を上滑りし、一瞬にしてその体を水平方向へ倒すことになった。その場でプールの飛びこみをするようなものだ。そして、両手を前につきだした恰好で、濡れた床に顔から着水した。
 そう、床は濡れていたのだ。ヌグ自身がはなったシャワーによって。
「…………」
 金の延べ棒のように動かない。

※「アキハバラ∧デンパトウ」より引用
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一つのアクションを、描写のしかたを変えてくり返し表現する手法。
二回おこなえばダブルアクション、三回おこなえばトリプルアクションとなる。
これはもともと映像で使われているテクニックで、それを小説に応用した。

以下の画像は、「中二病でも恋がしたい!」の1話からの引用。
ヒロインの六花が、停車した電車へ手をふりだし、魔法のように扉をあけたように見せるアクションを、カメラを変えて三度くり返している。(四枚目でドアが開く)

中二病のトリプルアクション①
中二病のトリプルアクション②
中二病のトリプルアクション③
中二病のトリプルアクション④


また、「のんのんびより」の4話でも、ダブルアクションがでてくる。
カニをとる動作を、カメラを変えて二度くり返している。

のんのん4話ダブルアクション① (1)
のんのん4話ダブルアクション②


くり返しアクションは二度か三度であることが多いが、まれにそれ以上くり返されるときもあり、「けいおん!!」(二期)の8話では、田井中律の「そんな……」という台詞と動きが、カメラアングルを変えて五度もくり返されている。

けいおん8①
けいおん8②
けいおん8③
けいおん8④
けいおん8⑤


出崎統による、同一の映像をパンしながらリズミカルにくり返す「三回パン」という演出法も、これらの一種といえる。

上記引用文では、着ぐるみ姿の「ヌグ」というキャラクターが足をすべらせて倒れ込むアクションが、三回おこなわれている。
この演出法の効能は、アクションを強調できることだ。
レトリックにおける「反復法」を、アクションに応用したものともいえる。

映像におけるくり返しの場合は「タイミング」が重要で、リズミカルにくり返さないと気持ちよさがでない。
小説の場合は、メディアの特性上、映像よりも気持ちよくくり返すことが難しい。
たんに文章を変えてアクションをくり返しただけでは、読者に意図が伝わらないおそれもある。

上記引用文では、「漸層法」というレトリックと合わせ、トリプルアクションをおこなっている。
一度目は「ハエ叩きを思わせるいきおいで倒れこみ、ぺしんと顔から床に叩きつけられた。」と軽く一行で表現したあと、二度目はそれよりも長く描写し、三度目はさらに長く描写することで、だんだん文意を強めていっている。
それにつれ、倒れ込む時間の流れもどんどんスローモーションになっている。


なお、くり返しの動作の合間に、空白行を挟んでべつのシーンとしておこなえば、ステープリング・テクニクスの「場面反復法」に近くなる。
書いてる人

藍上 陸(らんじょうりく)

藍上 陸(らんじょうりく)
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小説書いてます。

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