動作跨ぎ法(ステープリング・テクニクス)

【 動作跨ぎ法 】

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 片手に原稿、もう片手にブーツという珍妙な恰好で、ふたたび電波塔を見あげる。
 あやうくブーツの直撃を食らって電波塔よりも高いお空へ昇天するかもしれなかった身としては、わざわざこれを届けてやる義理もない。が、ここで電波塔の関係者に恩を売っておけば、叔父から託された〝役目〟を果たすのに役立つかもしれない。
(とりあえず、電波塔の関係者に心当たりを訊いてみるか)
 そう思ったとき、黄土色の悪魔によって粘膜を攻撃された。
「ふぇ、ふぇえ、~~~~~~っ、」

  コンビニ筋肉
「~~~~へっくしゅん!」
 店に入ったところで盛大にくしゃみをし、顔をあげたときにそれはあらわれた。
「ハッハッハ! よくきた青年よ! なんにするかね!」
 筋肉むきむきの二メートルはあろうかという顔の濃い五十路(いそじ)絡みの店員が、爽やかに白い歯を覗かせて話しかけてきた。
(あれ? 俺、コンビニに入ったつもりだったけど店まちがえたかな? それとも知らず知らず異世界への扉をくぐっていてファンタジーな武器屋にでも紛れ込んじゃったのかな)
 高橋は瞳を傾かせて現実逃避した。

※「アキハバラ∧デンパトウ」より引用
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ステープリング・テクニクスの一種。
Aシーンの最後におこなった動作を、Bシーンの冒頭でもおこなってシーンの連続性を作るのが、「動作跨ぎ法」である。
上記の例では、「くしゃみ」の動作によって、場面転換をスムーズにおこなおうとしている。
Aシーンの最後で「ふぇ、ふぇえ、~~~~~~っ、」とくしゃみしようとしている主人公は、このとき「外」にいる。
しかし空白行を挟んで、Bシーン冒頭で「~~~~へっくしゅん!」とくしゃみを終えた瞬間、主人公は店内(コンビニ)にいる。

くしゃみの瞬間に主人公が移動したわけではなく、主人公は外で一度くしゃみをし、そのあとコンビニに入ってもう一度くしゃみをした、ということ。
その二つのくしゃみを、映像でいうところの「編集(カッティング)」の段階で一つにつなげたと考えるとわかりやすい。

映像でよく使われる、「マッチカット」を小説に応用したもの。

以下に、今敏監督の映画「パプリカ」から、マッチカットの例を引用する。

パプリカマッチカット①

パプリカマッチカット②

パプリカマッチカット③


また、上記の「くしゃみ」などの特定の動作によってシーンをつなげることを何度かくり返したあと、あえて読者の予想を裏切るやり方もある。
下記の引用文のうち、※①の個所では、主人公の高橋がまたくしゃみをすると思わせておいて、「番人」というキャラが「バルクアップ!!」と叫び、読者の予想を裏切っている。

また同じ下記引用文のうち、※②の個所では、番人の「ハッハッハ! 肉まんを食べてキミの体もバルク、」という台詞を中途で切ったあと、空白行を挟んで、高橋によって「……アップ。」と台詞を引き継がせている。
「バルクアップ」という言葉を半分ずつ二人にいわせることで、シーンとシーンをステープリングして連続性を持たせている。

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 胡椒の微粒子が舞いあがり、高橋の鼻を刺戟した。
 一足早くヌグが「ぺくち」と河童口になってくしゃみし、高橋もそれにつづいて、
「ふぁっ、……なっ、はっ、は~~~~~~っ、」
             ∽∵∧―∧
「バルクアップ!!」※①
 裸エプロンの番人が、体の前で拳をかち合わせて上体の筋肉を隆起させた。ボディビルの〝モスト・マスキュラー〟のポーズである。ドヤ顔である。
 電波塔の一階にあるコンビニ、《ダブル・バイセップス》。
「やぁ高橋クン! キミもこんな美しい筋肉をつけてみたくなったのだろう?」
「レジ打ち、お願いします。」
 商品カゴを置きながら、淡々と告げた。
 ペンネの部屋でまともな食事にありつけなかった高橋は、電波塔をでて街にくりだすことにした。そして見つけたマクドナルドでチーズバーガーを二つとポテトを食べ、そこで軽く時間を潰し、まだ食べ足りなかったので、帰りにこの店に立ち寄ったのだった。
 店長の番人が、カゴのなかの商品をスキャンしていく。
「フゥン、百八円ンゥ、百九十八円ンゥ、五十八円ンゥ、十円ンゥ、」
「……なんでいちいちそんなイキむような声がでるんですか。」
 うまい棒をあつかうときでも、まるで三十キロのダンベルを持ちあげるような気合いである。暑苦しいったらありゃしない。
「ンフ、ンフゥ……いつも重い器具でトレーニングしているから、軽いものが逆に重く感じてしまうのだよ。」
「……なんのために鍛えてるんだか……あ、そうだ、それと中華まんを、」
「肉まんかね!」
「いえ、ピザまんがあれば、」
「うちは肉まんしかないよ!」
「は? んなわけないだろ、……って、うわっマジだ! 肉まんばっかだ! 保温機のなかで力士たちが土俵入りしてるみたいなことに!」
「ハッハッハ! 肉まんを食べてキミの体もバルク、」
             ∽∵∧―∧
「……アップ。」※②
 エレベーターに乗ってウィーンと上昇しながら、高橋はぼそりとつぶやいた。
 両手には、一個ずつ肉まん。
 すぐ食べるからと、紙袋につつんだだけで手渡してもらったため、温かくてやわらかい。
 それを自分の胸に当てがっている。ふくよかな双丘(そうきゅう)ができた。まさに肉増量(バルクアップ)である。

※「アキハバラ∧デンパトウ」より引用
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藍上 陸(らんじょうりく)

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