アキハバラ∧デンパトウ・執筆前史

アキハバラ∧デンパトウ (GA文庫)
藍上 陸
れい亜 (イラスト)
SBクリエイティブ


「アキハバラ∧デンパトウ」について、執筆にいたる経緯を書きたいと思います。
本作のアイデアは、2010年10月27日に浮かびました。
僕は企画を作るとき、「Story Editor」というソフトを使って階層型(ツリー型)に書いていくのですが、最初のツリーに、アイデアが浮かんだ日付をメモするようにしています。
また、日付とともに、アイデアが浮かんだときの状況や、そのときの気持ちなども書くようにしています。

どうしてそんなことをするかというと、僕は筆が遅いので、企画ができてから実際に執筆にとりかかるまでが長く、最初の気持ちをわすれてしまうことがよくあるからです。
「アキハバラ∧デンパトウ」についても、最初に思いついてから執筆をして連載がはじまるまで、五年も経っているわけです。
ほかにも企画だけ作って数年間冬眠しているのがけっこうあります。

なので、思いついたときの状況や、そのときのラフなアイデアをしっかりと書いておいたほうが、あとあと思いだすときに便利なわけです。

さて、このアイデアが思いついたのは2010年10月27日と書きましたが、この当時僕は東京の谷中というところでアパート暮らしをしていました。
群馬にいたときは電車にほとんど乗ったことがなかったので、電車で移動するのがおもしろく、いろいろな場所に行っていました。

この日も、電車に乗って出先から谷中に帰る途中でした。
ふと電車の窓から外を見ると、建設途中のスカイツリーが見えました。
「あぁ、もうじきあれも完成するんだなぁ」と思っていると、ふと「ああいう電波塔って人は住めないのかな?」という気持ちになりました。
「架空の電波塔を舞台にしたアパートもの」という絵面が浮かんだのです。

あとは一気にアイデアが揃っていき、アパートに帰ったあと企画をまとめたのですが、二日ほどでほとんど現在の形に近い設定とストーリーができました。自分にしては速いほうです。
どのような内容か、現在GA文庫公式サイトで公開されているあらすじを以下に引用します。

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 十九歳の高橋は東大受験にまたもや失敗し、二浪の身となった。千葉の実家を追いだされた彼は叔父(ヤクザ)の紹介で、秋葉原にある「新東京多目的電波塔(アキハバラ電波塔)」という場所に引っ越すことになる。
 ここは、電波塔とビルの機能が合体したもので、最上階にはマンションが入っていた。
 マンションには、「異世界の勇者」を名乗るマンガ家少女ペンネをはじめとして、着ぐるみの天才美少女、昭和文化オタクの女子大生、筋肉オヤジ等々、おかしな連中ばかり……。
 そこでチロ(千葉浪人)とあだ名をつけられた高橋だったが、彼には叔父から地上げのため、秘密裏に住人の秘密を探れという命令を受けていた……。
 秋葉原を舞台とした、新感覚スクリューボール・ラブコメ!
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企画当初から内容に大きな変更はありませんが、当時の仮タイトルは、「秋葉原ヴォードヴィリアン」でした。電波塔に集まっている人びとを、変わった芸人集団みたいに見立てていたのですね。

舞台を秋葉原にしたのは、当時ほとんど毎日秋葉原に通っていたからでした。毎朝、谷中のアパートをでて、徒歩で上野方面までいき、秋葉原のルノアールで朝食をとりながらパソコンで仕事をするのが日課になっていました。
どうしてそんなに秋葉原が好きだったからというと、べつの作品でアキバを舞台にしたものがあったんですね。それの取材もかねていました。東京に引っ越したのも、一つにはその作品のためでして。
その作品はいま、ちょっと執筆が止まってしまっています。(かならず書きます、ハイ)

そんな感じで企画ができたあと、当時からつきあいのあった森田季節さんにもメールで見てもらって感想をいただきました。
ラブひなのオマージュですね」というコメントがあって、うれしかったのをおぼえています。
「東大に二回落ちた浪人生」という設定はまさに赤松健先生の「ラブひな」です。

自分の世代にとって、「美少女と同じところで暮らすラブコメ」といえば「ラブひな」なんですよね。「アパートもの」というジャンルの代表格という気がします。(ラブひなはアパートじゃなくて下宿タイプですが)

ちょうど自分が中高生のときに読んでいたので、ラブひなは青春ドストライクな作品です。
自分の創作観にも大きな影響を与えた作品ですので、オマージュとして主人公の設定を「東大に二回落ちた浪人生」にしました。

企画当初はさらに、「高校時代、一緒に東大に入ろうと約束した女友達がいて、その子だけがさきに東大に入ってしまった。主人公と再会するたびに、その女友達はどんどん女子大生っぽくなり、主人公を悩ませる」という設定を考えていました。「好きだった子が会うたびにビッチ化していく!」というギャグにしようと思ったんですね。
でもこれでは「ラブひな」に対するオマージュというか、パロディになってしまって失礼な気がするのでやめました。
それと、舞台である電波塔の外側にそういうキャラがいると、話がとっちらかってしまうおそれがあります。

本作はほかにもいろいろな作品から影響を受けていて、特異な男キャラのイメージは衛藤ヒロユキ先生の「魔法陣グルグル」ですし(キタキタ親父とか)、ほかにもコメディの種類として中村光先生の「荒川アンダー ザ ブリッジ」の影響もあります。

そんな感じで、いちおう2010年には企画はできていたのですが、それがどうして小説にするまで五年もかかったかというと……当時おつきあいのあった編集の方々には、あまりよい反応がもらえなかったから、というのが大きいですね。
いくつか企画をだしても、あまりこの作品には反応がなく……。
ラノベの企画は水物なので、時期によってイケるときとダメなときがあります。

ようやく日の目を見るようになったのは、2014年のことです。
GA文庫の編集の方から、「ガンガンGA」で連載する小説の企画募集がありました。
それで、昔書いたこの企画をだしたところ、めでたく編集会議に通ったというわけです。
「アキハバラ∧デンパトウ」では一つ一つのエピソードがわりと短めなので、連載小説のフォーマットに向いているのかもしれません。

そんな感じで企画が通ったのですが、実際に小説にするまでのあいだに、いくつか変更するポイントがありました。

一番はペンネの設定でした。
当初は、「電波塔の最上階のマンションに暮らしている謎の少女で、自分のことをマンガの作中人物だと思いこんでいる。自分がどのマンガからきたのか知るために、大量のマンガを読んでる」というものでした。
マンガオタクという設定だったんですね。当初は「電波塔のなかにさまざまなオタクが暮らしている」という部分を強調しようと思ってそうしたのですが、どうもこの設定だとコメディとしてうまくまわせない気がしました。

そこで、ペンネの性格や設定を大きく変え、性格を明るくしました。
具体的にどのように明るい子になったかは、小説本篇をご覧くださいませ。

第1回の解説はこちら。
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藍上 陸(らんじょうりく)

藍上 陸(らんじょうりく)
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